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岡本かの子『アムール幻想傑作集 美少年』(彩流社) [幻想文学]

昭和初期、数年間のみの活動期間で作家として知られる岡本かの子の、特に幻想小説度合いの高い短篇を集めた作品集です。
幸いなことに(?)今まであまり触れてこなかった作家さんなので大変楽しく読みました。
現実的であったり夢のようだったり、幸せであったりそうでもなかったりと展開はさまざまで、一気に読んでしまうと作家の感覚にあてられてめまいがします。男女の濃密あるいは淡々とした関係ばかりとも限らない、人間どうしの美しくもあり恐ろしくもあるつながりが、短い作品の中に緻密に書き込まれています。わたくしは「過去世」で天を仰ぎました。
いかにも作者の実体験をそのまま描いたかのようなお話もちょくちょく出てきます。特に夫の岡本一平とのかかわりを連想させるシーンは印象に残りますし、一平自身もふたりの思い出を脚色した作品だと証言していたりするんですけれども、なにぶん夫婦揃って芸術家だった人たちのする話ですから、額面通りに受け止めるのは危険ですね。
そういう文学研究としての見方はいったん置いといて、まずは作品と向き合って楽しむところからのスタートですよ。

美少年 岡本かの子 アムール幻想傑作集 (復刻アンソロジーシリーズ)


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E・H・ヴィシャック『メドゥーサ』(アトリエサード) [幻想文学]

海のうえで生まれ育ち、両親を失い、寄宿学校からも脱走した少年は、ふとした縁から船主の男性と知り合い、彼とともに海へ旅立つことに。順風満帆の航海はしかし、しだいに不穏な様相を帯び始め……
主人公の周囲をうろつく正体不明の怪物ですとか、海賊に捕らわれた息子を探す船主とか、なぜか彼と折り合いが良くない船長とか、海賊船にただひとり残された謎の人物とか、いろいろ出てくる海洋冒険小説みたいなお話です。身寄りのない少年が船に乗せてもらう序盤は『宝島』や19世紀の小説っぽいんですけれども、中盤を過ぎたあたりからどんどん異様になってきて、最終的にはなんだかよくわからないうちに終わります。
海洋小説のようでもあり怪奇小説のようでもあり、海と船旅の描写もあり、哲学的な話も出てきてものすごく面白かったんですけれども、人にすすめたら良識を疑われるんじゃないかと思いますね。あまりにも謎を投げっぱなしにしていて、いやでもこれはちゃんと読んだら全部解決しているのではないかという気もして、ほんとうにもうびっくりするようなへんな小説です。荒削りとかいうのではなくてただただヘンテコです。
巻末には著者による評論「恐怖小説の意義」があわせて収録されていて、ミルトンからポー、ド・クインシーにコンラッドまでいろんな作品が具体例としてあげられています。こちらも興味深いのでぜひいっしょにお楽しみ下さい。ものすごくわたくしと趣味が合う感じだったので、個人的に大変面白かったのが腑に落ちました。
わたくしが今まで読んだなかで近いと思うのは「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」ですかね。展開は全然似てないんですけれども、海に出ているのにふつうの海洋小説じゃない部分が強烈で、謎が放り出されて終わるところは似ていると思うんですよ。他の方の意見が聞きたいのでぜひ皆さん両方読んで下さい。『メドゥーサ』のほうはちゃんと完結しているし、そんなに長くないので読みやすいです。

メドゥーサ (ナイトランド叢書3-5)

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ステファン・グラビンスキ『不気味な物語』(国書刊行会) [幻想文学]

ポーランドの幻想小説作家の、なんと日本語で読める四冊目の短篇集です。『動きの悪魔』『狂気の巡礼』『火の書』ときて本書を読了して思うことは、こんな作家が日本語であらかた読めるようになったのはすごいことだなぁという一点に尽きます。企画から翻訳、編集、装丁など、関わられた皆さんにはほんとうに感謝しています。
超自然的でこわい話、超自然的ではなくてこわい話、そんなにこわくはない話(※感想には個人差があります)まで、タイトルのとおり不気味な雰囲気にいろどられた作品が短篇集二冊分、全十二篇入っています。装丁も品良く薄気味悪い感じがあって素敵です。
こわさの種類がバラエティに富んでいて、とても古くからある怪談のパターンにつらなるものもあれば、他ではちょっとお目にかかれないような展開もあるのがおもしろいです。ネタバレしてつまらなくなるような本ではないんですけれども、できるだけたくさんの方にびっくりしていただきたいのであまり詳しく書けないのが難しいところです。
個人的に注目したのが「偶然」で、最初に出た『動きの悪魔』と同じく鉄道が出てくるこわい話です。続編の「和解」がいっしょに入っていて続けて楽しめるようになっているのと、これと同じテーマを扱った芥川龍之介の短篇がやはり鉄道と関係していたのを思い出したからです。相性がいい組み合わせなんですかね。

不気味な物語


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山尾悠子『増補 夢の遠近法』(ちくま文庫) [幻想文学]

以前に単行本が出たときに記事を載せているですが、収録作品が増えて文庫化されたのでもう一度ご紹介です。唯一無二と書いて「ちょっと他にいない」と読ませたい幻想文学の書き手、山尾悠子の初期作品選でございます。文句なしに代表作と呼びたい「夢の棲む街」を筆頭に、現実の京都を舞台とする「月蝕」、掌編メルヘン「童話・志那風小夜曲集」「眠れる美女」、ちょっと怖い「私はその男にハンザ街で出会った」など、どこから手を付けるか迷ってしまうようなレベルの高いショウケースとなっています。
今回増補されたのは全編に不吉な滅びの気配をまとう「パラス・アテネ」と、単行本にも収録されていた「遠近法」に続く「遠近法・補遺」の二篇です。わたくしは特に「遠近法・補遺」が好きで好きで、これが文庫という形で多くの方の目に触れることが嬉しくてたまりません。

とにかくものすごく濃密で、言葉だけで見たこともない世界に読者を連れてゆき、そうしてその世界を言葉だけで壊してしまえる作家さんです。見たことのないものを見たい本好きの方にはぜひともこの機会にお読みいただきたい、それ以外に申し上げることはございません。はい。

増補 夢の遠近法: 初期作品選 (ちくま文庫)


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M・P・シール『紫の雲』(アトリエサード) [幻想文学]

功名心に駆られ、人類初の北極点到達を目指す冒険旅行のメンバーに加わった私。しかし決死の旅からの帰路で彼が目にしたのは、毒ガスによって生命が死に絶えた地上の姿だった……
破滅SFの先駆けとして聞いておりまして、ずっと読んでみたかった小説です。地上を覆う毒ガスの正体や、破滅を前にした人類の姿など、パニック小説のような趣も少しだけあるんですけれども、全体的には数奇なめぐりあわせでうっかり生き残ってしまった男がひとりでずっと書き続けている手記です。この手記がどのようにしてわれわれ=20世紀の読者の目に触れることになったのかを説明する導入部が、いかにもこの頃の幻想小説らしくてそこからして好みです。「続き物の夢で見た」「いつの間にか精神だけ別の惑星に行ってた」レベルの、あってもなくても大丈夫そうに見えるプロローグですよ!この頃の小説を読み慣れてない人は、まずオープニングでちょっと何言ってるかわかんないと思われるかもしれませんが、ひとまずあまり気にせず読んでいただいて大丈夫です。本編ではいっさい話題になりませんので。
主人公は北極探検隊に参加できるほどのスキルと肉体を持っているので、北極点でたったひとりになってしまってからもひとりで無事に帰還し、なつかしいロンドンをはじめとした世界各地を回ります。ひとりで。廃墟好きの人におすすめと言いたいのですが、人類が毒ガスで死に絶えた世界という設定上、すべての廃墟にもれなくリアルな人間の死体描写がついてくるのがネックです。
主人公はハイスペックですけれどもあんまり好感が持てるタイプではないし、世界各地を周りはじめてからの行動はだいぶ支離滅裂で、特に終盤の急展開では正直なところ時空を超えてぶん殴りたくなりましたが、全体としてはたいへん面白く読みました。なんといっても小説ですからね。
主人公が極地から帰還した後に書き始められ、ときには数年にわたって中断されながら記された手記として考えると、さいごにはとんでもない大河叙事詩を読み終えてしまった気持ちになりました。へんな小説が好きな方にだんぜんおすすめします。ぜひ読んで下さい、へんな小説が好きなら。

紫の雲 (ナイトランド叢書3-4)


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ソフィア・サマター『図書館島』(東京創元社) [幻想文学]

辺境の島の大農園に生まれた少年は、異国からやってきた家庭教師の手ほどきで外の世界を知り、やがて島を出てあこがれの都へと出発する。しかし船旅でのある出会いをきっかけに、彼は帝国に隠された真実を知り、思いがけない争いに巻き込まれて……
とりあえずはカバー折り返しのあらすじですとか帯のテキストですとかタイトルですとか、そういう予備知識を取っ払ったうえで読んでいただきたいんですよ。たぶんあなたの予想するようなお話ではありません。だって東京創元社の海外文学セレクションですよ。
なんならカバーイラストだって、本書のきわめて限られた一面を描いただけにすぎません。絵本っぽい雰囲気があっていつまでも眺めていられるんですけれども、こういう世界だけの小説ではなかったんですよ。政治と信仰にまつわる戦いも書かれているし、ふたつの異なる文化の関わりについても語られますし、世界の命運をめぐるあれやこれやとは別のところで起きているささやかなできごとであったりもします。
読後の感想としては、確かな歴史と文化を持った別の世界を、主人公を通して見てきたような気持ちです。長い旅を経て主人公がたどりつく場所が、とてもとても遠く感じられました。

図書館島 (海外文学セレクション)


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アンナ・スタロビネツ『むずかしい年ごろ』(河出書房新社) [幻想文学]

ロシアの新鋭作家の登場でございます。こちらがデビュー作品集ということで、今後の翻訳がどんどん進むことが期待できますし、わたくしはもう今から期待しています。
帯にでっかく入ったテキストは大変ホラー小説っぽいんですけれども、わたくしにはSF小説のようにも感じられました。ロシアにはドストエフスキーやゴーゴリからソローキンまで、昔からジャンルを決めたくないような怖い名作小説がいろいろありますけれども、その系譜に並べたくなるジャンル分けしがたい怖いお話です。
とにかく表題作の中篇がばつぐんに怖くて面白いんですよ。論理的な恐ろしさと生理的な気持ちのわるさが組み合わさり。家族の不和を扱っているようにも見え、どこから切ってもいやな感じで読後感もぐしゃぐしゃでとても良かったです。中核をなす怖さがどこらへんにあるのかというのは読んでのお楽しみですが、ヒントは裏表紙です。
どの作品も現代のロシアを舞台にしていて、日常のように見えた世界がいきなりずれ始めたり、最初から日常なんて存在しなかったり、どこかで読者の背筋を寒くしてくれます。気に入る人はものすごく気に入る作家さんですね。わたくしとか。

むずかしい年ごろ


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エドワード・ルーカス・ホワイト『ルクンドオ』(アトリエサード) [幻想文学]

基本的には長篇歴史小説で有名な作家さんの怪奇短篇集です。特筆すべきは、作者自身の悪夢にもとづいて書かれた作品ばかりということで、ちょっとよそではお目にかかれない独特の怖さがあります。幽霊や怪物が出てくる話もあるにはありますし、超自然の力がはたらいたミステリみたいなものもあって、ちょっと昔のオーソドックスな怪談かと思っていたらとんでもないものが出てきて足を踏み外す心地がします。この世の外まで。
わたくしがどうなるのか全くわからなくて意表を突かれっぱなしだったのが「鼻面」です。読み終えてから振り返ると、既存の小説の中にカテゴリを見いだせないでもないようにも思えるのですが、動物園で怯える男の回想があんな展開を見せるとはとても予想できませんよ。ラストの「邪術の島」も、テーマ自体は珍しくないはずなのに広がる世界があまりに奇妙で呆然としていました。結末も毛色が変わっています。
「千里眼師ヴァーガスの石版」なども、なかなか普通にしていては思いつかない流れでびっくりしていました。きれいに整った展開とは言えないかもしれませんが、夢の話を書きましたという説明には説得力があります。
例外として、作者自身ではなく友人の夢を下敷きにした「フローキの魔剣」は北欧のバイキングの世界を舞台にしたファンタジーで、またがらりと変わった雰囲気があります。怪異も出てきて怖い話には違いないんですけれどもやっぱり新鮮で、作者の夢のセンスと夢を小説にするセンスにはもう脱帽するしかありません。

ルクンドオ (ナイトランド叢書3-3)


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アルジャーノン・ブラックウッド『いにしえの魔術』(アトリエサード) [幻想文学]

新訳二篇と本邦初訳三篇を収録した、不思議で不気味でこわい作品集です。どこがどうこわいというのを文章にするのがわたくしには少し難しいんですけれども、今すぐ自分に危害が及ぶわけではないのにこわい、人類が触れてはいけないものがいる場所までうっかり来てしまったこわさです。以前同じシリーズから出た『ウェンディゴ』が楽しかったので今回も引き続き楽しく読みました。
わたくしはとにかく、得体の知れない古代の怪異が出てきかかったり出てきてしまったりする話が好きなんですけれども、古代の何かといってもそんなに恐ろしくもないものが登場する、恐怖より神秘が強い感じの作品もあるところが効いています。人が死んだり、永久に正気を失ったりするだけがこわい話じゃないんですよ。一応は無事で帰ってきて教訓を感じさせるところがないでもない「獣の谷」が今回のお気に入りです。

いにしえの魔術 (ナイトランド叢書3-2)


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グスタフ・マイリンク『ゴーレム』(白水uブックス) [幻想文学]

プラハのユダヤ人街に暮らす宝石細工師のぼくは、ある日奇妙な男から古い書物の修復を依頼される。確かに話したはずなのに顔も服装も思い出せないその男こそ、33年ごとにこの街に現れるゴーレムだと人々は言うのだが……
作者は神秘思想にがっつり取り組んでいた専門家なので、カバラや錬金術、土くれから作られた人造人間ゴーレムの伝説が交錯するプラハの雰囲気は抜群です。とはいえマニア向けで素人が読んでも何が何だかわからないほどではなく、ちゃんと小説として面白いのでご安心下さい。主人公とともに奇妙な冒険を繰り広げ、最終章で呆然としてそして余韻に浸れます。
どこにも入り口のない部屋とか、33年周期で出現する正体不明の人物とか、得体の知れないものがたくさん出てくる一方で、主人公の暮らすユダヤ人街に酒場、教会など、プラハの描写にもいちいち引きつけられます。冷やかしではなく、いい意味で今すぐプラハに行きたくなる本です。逆『死都ブリュージュ』です。挿し絵の石版画もあやしげで不思議なムードを盛り上げています。

それと少し前に読んだイジー・クラトフヴィル『約束』を思い出すところがいろいろあったので、まだの方はぜひいっしょに読んでいただきたいですね。『ゴーレム』のほうがだいぶ前に出た本です。

ゴーレム (白水Uブックス 190)


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