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ウィルスン・タッカー『静かな太陽の年』(創元SF文庫) [SF]

未来学者チェイニイは、政府機関が極秘で開発したタイムマシンによる未来社会の調査計画への参加を求められる。しかしアメリカと中国の緊張が高まるなか、大統領の要請により計画は思わぬ方向へと向かい……
初版が出たのが1970年、物語のスタート地点が1978年、当時としてはものすごく近い未来の小説です。未来ですからスケールも現実的で、タイムトラベルが可能なのも過去と未来の数十年程度という制限もあり、しかも大統領の横槍によって目的時点はびっくりするほど地味なところに設定されてしまいます。
何万年先の未来社会にも数百年前の世界にも行けないから面白くないかというと、全然そんなことはないんですね。前述の事情のため、主人公たちはせいぜい21世紀までしか行けないことになるわけですが、それがかえって、現在からほんの数十年のアメリカの未来をさほど長くはない小説としてみごとに語っていて感動しました。タイムマシンが出てくるところに目を奪われがちなんですけれども、これはアメリカ合衆国についての小説だと思います。
主人公は古代の預言書の新解釈を出版して大炎上した過去のある学者で、タイトルは彼が研究していた古文書のなかからとられています。彼の教養も要所要所でスパイスになっています。いちばん最初の段落にまぎれている、何を言ってるんだかよくわからない一文もそのひとつで、これに引っ張られて最後までページをめくり続けてしまいました。

静かな太陽の年 (創元SF文庫)


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石川宗生『半分世界』(東京創元社) [SF]

こちらはSF叢書から出ているのですが、SF好きだけに独占させておくにはあまりにもったいない本なので、ことばにならないおかしみと感嘆を生み出すへんなお話を愛好される方々におかれましては、ぜひともお手にとっていただきたく存じます。なお、ここでいうへんな話というのは「ある日突然19329人になった男のたどる運命」とか「断面図のように縦にまっぷたつになった家で暮らす家族と彼らを観察する人々」などです。
設定の時点でだいぶ意味がわからない感じの作品集ですが、これが読んでみるとすっきりしていて頭にやさしいんですよ。作品によっては読後に爽やかさすら感じられます。上述のような、なかなかよそではお目にかかれない感じの設定であり、SFと言われればSFであり、読み終えたときの後味は悪くない……という、誰かを戸惑わせたいがためだけにすすめて回りたいおもしろさがありました。
解説にある作者の経歴にもあるとおり、中南米や東欧の現代文学のような味わいがあります。四つの作品が入っていてつながりはないのでどこからでも読め、全部世界観が見たこともないような独特さでした。SFじゃなくてもこう、へんな純文学が好きな方にはきっとお気に召します。ほんとうです。

半分世界 (創元日本SF叢書)


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シルヴァン・ヌーヴェル『巨神覚醒〔上・下〕』(創元SF文庫) [SF]

世界各地から発掘されたパーツを組み立て、女性型の巨大ロボット・テーミスが完成してから九年。ロンドンをはじめとする世界の大都市に、突如として男性型の巨大ロボットが出現する。相手の正体も目的もわからないまま、存亡の危機に立たされた人類のとるべき道は……
巨神計画』の続編なので、まだの方は前作から読んでください。前作でも地球ではいろいろありましたが今回はさらに急展開でいろいろ起こり、もう出てくるの無理だろうと思っていたキャラクターが再登板したり新しくとんでもない重要人物が出てきたりします。
前作について、ものすごく日本のロボットアニメっぽいという感想を持っていたですが、今回はロボットアニメっぽくない方向に話が動いたのが痛快です。災害映画みたような規模で人口が減ったり、巨大ロボット同士の格闘がパイロット目線で実況されたりします。すべてが現場目線で、派手さより臨場感が前に出てくるところが実に味わい深いです。
前回は正体不明のインタビュアーとさまざまな人物の会話で展開していきましたが、今回もインタビュアー氏は健在です。序盤から相変わらず暗躍していますし、少しだけ正体を明かしたりもするのですが、今回はその他の人びとの会話や手紙、インタビュアー以外の人物がホスト役を務めるシーンなど、描かれ方がだいぶ広がっています。今回もラストでだいぶびっくりしたので、引き続き続編を楽しみに待ちましょう。
巨神覚醒〈上〉 (創元SF文庫) 巨神覚醒 下 〈巨神計画〉シリーズ (創元SF文庫)


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D・H・ウィルソン&J・J・アダムズ編『スタートボタンを押してください』(創元SF文庫) [SF]

ゲームをテーマにしたアンソロジーです。出てくるのは架空のゲームばかりなので、詳しくない人でも安心して読める設計です。実在する何らかのゲームっぽいなぁと思うものも中にはあるかもしれませんが、わからなくてもちゃんと解説されているので問題ありません。そもそも、読者にとって未知のなにかが登場するなんてSFではよくあることじゃないですか。現実には存在しないゲームについての小説を楽しむポイントはいろいろです。ゲームそのものであったり、ゲームのなりたちであったり、ゲームを遊んでいる人たちの姿であったり、ゲームの中で起きるできごとであったりします。なにぶんSFなのでプレイヤーが完全にゲーム内の架空の世界に没入することもありますし、画面に向き合ってキーボードやコントローラーを操作している20世紀育ちでも想像しやすいケースもあります。進化したヴァーチャルリアリティばかりがSFとは限らないんですよね。
日本でも愛好者の多い、わたくしもどんな内容か簡単に想像できるジャンルを題材にした「キャラクター選択」「アンダのゲーム」の、現実とのつながり方がとても好みです。あんまりなじみのなかった(でも実在する)ゲームを扱ったものとしては「機械仕掛けの兵隊」ですね。ゲームの中と外の世界、どちらも現実とはちがっていて二倍楽しめます。

スタートボタンを押してください (ゲームSF傑作選) (創元SF文庫)


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ケン・リュウ『紙の動物園』(早川書房) [SF]

中国にルーツを持つ今注目のSF作家さんです。中国SFの英訳にも積極的にかかわってらっしゃいます。中国生まれで11歳のとき家族でアメリカ合衆国に移住したということなので、中国系ではなくほんとうに中国を知っていて書いている人です。
日本に初紹介された短篇「もののあはれ」はたいへん日本人好みの情緒がある作品で、なおかつ21世紀のセンスも入っていて、これは人気が出るに違いないと感じました。表題作は賞をたくさんもらっていて今のところ代表作とされているのかなぁと思うですが、これは現代的な(とはいうものの実は昔からある)問題と普遍的に受け入れられるテーマを併せ持っていて最強と感じました。力強い小説では全然ないんですけれども確かな存在感があります。
わたくしが一番好きなのは歴史改変ものの「太平洋横断海底トンネル小史」で、これや「文字占い師」など読後感が重たいものもあるのですが、びっくりするほど軽い「潮汐」みたいなのも入っています。執筆ペースは速めとのことで、これは今後の活躍に期待せざるを得ない作家さんです。

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)


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宮内悠介『超動く家にて』(東京創元社) [SF]

カバー折り返しの内容紹介にはひとことも書かれていないのですが、あとがきや解説を参照する限りまぎれもないバカSF短篇集です。エピグラフで落ち、一ページで落ち、甚だしいものではタイトルで出落ちまであります。
ほんわかした余韻を残す「弥生の鯨」、ミステリ仕立てでハードボイルドな結末を迎える「法則」など、いうほどバカかなぁと思うのもあるにはあるんですけれども、作者が11冊目の本で初めて記す念願の「あとがき」にてアイデアについて拝見しますと、確かにバカでした。はい。
いちばん出落ちだなぁと思ったのは村上春樹「パン屋再襲撃」の文体でウィリアム・ギブスン「クローム襲撃」をやるという「クローム再襲撃」です。タイトルからもうネタバレです。
デビュー作を含む『盤上の夜』も対戦ゲームを題材にした短篇集でしたし、本作も見回してみると何らかの競技に関する作品が多いような気がします。冒頭の「トランジスタ技術の圧縮」は雑誌『トランジスタ技術』を圧縮する競技の話で、この雑誌は実在しているのでそんなに厚いのかと思って「トランジスタ技術 厚い」で検索したところ、一番上に「トラ技のスリム化」というページが出てました。これはもしかすると予言小説なのかもしれません。

超動く家にて 宮内悠介短編集 (創元日本SF叢書)


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スタニスワフ・レム『短篇ベスト10』(国書刊行会) [SF]

ポーランドの読者によるレムの短篇人気投票をもとに選出されたベスト15を収録したアンソロジーから、すでに邦訳のある作品を割愛して編集された十篇入りの短篇集です。実は単純な読者による投票結果だけではなく批評家や作者自身の意向も反映されているそうで、人気投票では最下位だった作品も入っています。
レムはわたくしの印象だと『ソラリス』の印象があまりに強くてSF作家として知られているんですけれども、もっとジャンル分けに困るへんてこな作品もたくさん書いています。架空の書物の書評集『完全な真空』の収録作品は原書でもトップ15に四作が入る人気ですし(前述の事情によりこの本には入っていません)。わたくしはそんなにレムの作品をたくさん読んではないので、この本に入ったベスト10だけでも相当にバラエティ豊かで楽しめました。
科学用語がたくさん出てくる寓話というかおとぎ話みたいな「三人の電騎士」、これはどう見てもシリアスでかっこいい「テルミヌス」などはSF好きな方ならどなたも面白いと思うですが、個人的に抱腹絶倒までいったのは「洗濯機の悲劇」という作品です。あとは「A・ドンダ教授」「探検旅行第一のA(番外編)、あるいはトルルルの電遊詩人」もすごくよろしかったです。途方に暮れながら転げ回っていました。

短篇ベスト10 (スタニスワフ・レム・コレクション)


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アンジェラ・カーター『新しきイヴの受難』(国書刊行会) [SF]

ロンドンの青年イヴリンが混沌たるニューヨークへ渡り、恋人の女性を捨てて砂漠へ逃げ出し、女性だけで構成された地下世界ベウラに捕らわれる。そこで外科手術を施されて女性のイヴとなった彼は、地下世界を脱走しさらなる試練に出会うことに…
文明が崩壊しかかったアメリカで、男であり女にもなる主人公がえらい目に遭うSF小説です。具体的にどういう目に遭うのかは、訳者あとがきにてネタバレとあわせてていねいに解説してあるので読後にご確認下さい。
見たところごりごりのフェミニズム小説みたような印象なんですけれども、じっさいに読んでみるとそれどころではなかったです。四十年も前の小説ながら、今読むとまた新しい視点からの楽しみ方ができるので、思想にかかわらず呆然となるものが読みたい方は見逃さないようにして下さい。
わたくしは著者を純文学の人だと思っていたので、あまり違和感もなくとんでもない小説だなぁと思いながら読みました。アダムとイヴのパロディとか、聖書や英米文学の知識があると細かいところがもっと楽しくなると思います。

新しきイヴの受難


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ジーン・ウルフ『書架の探偵』(早川書房) [SF]

作家本人の記憶を持つ「複生体」が書物にかわって図書館で暮らし、利用者に貸し出される時代。スパイス・グローヴ公共図書館の「蔵者」、作家E・A・スミスの複生体であるわたしはある日、コレットと名乗る女性の訪問を受ける。自分の父と兄の死にE・A・スミスの著書が関わっていると考えたコレットに借り出され、わたしは彼女と共に事件の調査を始めるが……
本ではなく作家のクローンが暮らしている図書館とか(ほんとうに書架で暮らしているんです。家具やシャワールームがある生活空間としての書架なんです)空を飛ぶ乗り物とか、そういう細かい道具立てが実にSFです。中盤からもっとSFらしい展開もあるのですが、そこはネタバレなのでここには書けません。
未来社会の話とはいえ、全体的にはミステリらしい味わいのほうが強いです。謎の男たちに狙われたり連続怪死事件があったり、道中で出会った頼れる仲間といっしょに反撃したりと忙しい主人公ですが、なんといっても彼は人間ではなく本なのでちょっとずれたところもあるのが楽しみのひとつです。
全体的には軽く読めるお話、といいますかまじめに読むと悪い意味で壁に投げつけたくなる本じゃないでしょうかね。これから読まれる方は気をつけて下さい。

書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)


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J・G・バラード『ハロー、アメリカ』(創元SF文庫) [SF]

二十一世紀初頭、経済破綻と地球規模の気候操作の影響で崩壊し、砂漠と化したアメリカ合衆国。そして一世紀後、ヨーロッパを出発した探検隊の船がマンハッタンに上陸する。アメリカの夢を求める探検隊は都市部から果てしない砂漠へ、わずかに残る人々と出会いながら内陸部へと進んでゆくが……
主人公一行の蒸気船がプリマスを出帆したアポロ号とかいう時点でだいぶ毒があってわくわくします。ふたたびヨーロッパに「発見」されるアメリカと新天地に夢を見る探検隊の姿は、あまりにも大航海時代みたいで笑ってしまうんですけれども、放棄されたアメリカに今も暮らす放浪民たちの名前や地獄のような砂漠の旅はいかにも二十二世紀です。
アメリカ到着後からだんだんおかしくなっていく船長や探検隊メンバー、ラスヴェガスで出会うどこかで聞いたような名前の大統領など、やばそうなエピソードがどっさり出てくるにもかかわらず全体としては大変アメリカ的な冒険小説になっているのが大事なポイントです。冒頭におかれた著者自身による「一九九四年版への序文」はややネタバレではありますけれども、読んでいる最中よりも読み終えてから意味がわかってくるタイプのネタばらしです。

ハロー、アメリカ (創元SF文庫)


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