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正岡子規「歌よみに与ふる書」 [随筆・日記]

このところ短歌に興味があるので、そういえばまだ読んだことのなかったこちらを青空文庫さんで読んでみました。
わたくしは新古今集のスタイルが大好きなのですが、たぶん正岡さんとは趣味が合わんだろうなぁという予測を念頭に置いていたおかげで、あまり気にせず楽しく読むことができました。自分と趣味が合うかどうかは別にして、何かのジャンルで熱心に活動している人がそれについて絶賛したり罵倒したりするさまを見ているというのはおもしろいものです。しかも文章がうまいですからね。
「歌よみに与ふる書」というタイトルなのですが、この「書」は手紙のことであり、短歌初心者へのガイドブックというよりは今短歌をやっている仲間たちへのメッセージみたいな気持ちで読みました。もともとは新聞の連載であり、読者からの質問に答える形の回もありますので、正岡さんが自分の立場を表明するものであって教科書ではないと思います。わたくしの場合、先に塚本邦雄の正岡批判を見ていたのでかえって心穏やかに読めたところもありますね。
全然合わない部分もあるので座右の書にして信奉するのは無理だなぁと思うですが、第一回でいきなり源実朝以降の短歌はずっとぱっとしないとぶっちゃけるところとか、自分がいいと思ったものをわかりやすく表現するのが短歌だとか、そのあたりはちょっとうなずく部分もありました。
で正岡さんの人物が好きになったかと問われると、特にそういうことはないままですね。

正岡子規「歌よみに与ふる書」
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蓮實重彦『帝国の陰謀』(ちくま学芸文庫) [随筆・日記]

フランス第二帝政の内務大臣をつとめたルイ=ナポレオンの異父弟ド・モルニーを中心にした軽い読み物です。エッセイというにはだいぶ史料が入ってくるんですけれども気楽に楽しめます。わたくし自身がそうだったので、フランス近代史について学校で習ったくらいしか思い出せなくても全然問題なく楽しめることは太鼓判を押します。
ナポレオン三世ことルイ=ナポレオンではなく、弟のド・モルニーをメインに据え、彼の手になる政治的ないくつかの文書と、オッフェンバックが曲をつけたオペレッタの脚本を読み解いてゆくのですが、まずこのド・モルニーという人物の来歴が相当におもしろくてですね。実在の人物なのかが疑わしくなってきて思わず検索しました。どうやらWikipedia以外にも言及が存在する実在の人物ですし、オッフェンバックが曲を書いた作品も実在するようです。そうなんですよ、怪しげな政治家であると同時にオペレッタの脚本なんか書いていた人なんですよ。どうやら本当に。
第二帝政がなくなるよりも前に没していますし、歴史の教科書に載るような事件を一人で起こしたわけでもないので、本書は特に劇的な結末もなく終わるのですが、そんな人物の話をまるまる一冊続けて楽しく読ませるのだから大したものです。

帝国の陰謀 (ちくま学芸文庫)


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クラウディオ・マグリス『ドナウ ある川の伝記』(NTT出版) [随筆・日記]

ドナウ川を水源から河口までたどる伝記です。そもそも水源はどこなのかという問題から始まって、流域にあたる国々と無数の街の歴史、川や都市にまつわる伝承、訪れた旅人たちなど、とにかく情報量とそのジャンルが半端じゃありません。
旅行記というわけでもないですし、ドナウ川をたどりながらいくつもの国を通り過ぎるのでどこか特定の地域というわけでもないので、なるほどドナウ流域をめぐるエピソードをまとめた伝記に間違いありません。水源(たぶん)のある西ドイツからはじまって、たまに川からちょっと離れつつ、最終的には河口のあるルーマニアに至る旅路ですから、もう最後にはすっかり別の国なんですよね。
土地の人びとの話題や名物、建築物、歴史上の有名人、作家などなど、話題は多岐にわたっていて飽きません。古代ローマから第二次世界大戦後まで、筆者の守備範囲の広さに感嘆します。かなりぶあつい観光ガイドとしても読めそうではあります。
巻末に名所や有名人がみっしりつまった索引がついてくるものの本文中にいっさい注釈や写真はなく、最初に地図が一枚与えられるきりの紙上の旅路はとても新鮮でした。日本語版は山口晃のカバーがあるので少しだけ情報量が多いので、読み進めながらやたら表紙を振り返りたくなる本になっています。だいぶ前に読んだ『ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし』も同じテーマを扱っていて少しだけ関係があります。

ドナウ ある川の伝記


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吉田勝次『素晴らしき洞窟探検の世界』(ちくま新書) [随筆・日記]

タイトルと表紙に必要な情報は全部入っています。テレビの特番でたまにやっていたりいなかったりする、世界中の洞窟を探検する人が書いた本です。
表紙と口絵の写真はこの世のものとは思えない幻想的な美しさですけれども、底へ至るまでの道のりはまぎれもなく現実です。洞窟の探し方から準備、装備一式を揃えるのにどれくらいかかるか、現地にたどり着いて情報を集めて入り口を発見して、いざ入ってみたら案外あっさり行き止まりになってしまったりもする、そういう具体的な手順がいちばん面白うございました。奇跡のように美しい情景は映像や写真で見られるわけで、それ以外の部分も楽しいんです。
読み終えて印象に残るのは「めちゃくちゃ大変だけど楽しい」という一点で、命を落とすかもしれない危険や過酷な環境、快適に眠れない現場についてたっぷりページを使っているにもかかわらず、入ってみたくなる読者を生んでしまう本です。

素晴らしき洞窟探検の世界 (ちくま新書)


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J・L・ボルヘス『語るボルヘス』(岩波文庫) [随筆・日記]

ボルヘスが1978年にブエノスアイレスのベルグラーノ大学でおこなった連続講演の記録です。テーマは「書物」「不死性」「エマヌエル・スヴェーデンボリ」「探偵小説」「時間」。ボルヘスの講演記録は前にも日本語訳がいくつか出てきますけれども、話し言葉なのでエッセイや小説よりちょっとわかりやすくて親しみ深いような気がしますね。
とりわけ興味深かったのは「探偵小説」の章です。ポーの話から入るのでお題とは関係のなさそうな詩についてしゃべり始めたり、ボルヘス自身も探偵小説が好きだというくだりもあります。探偵小説をこんなアプローチから話す人はあまりいらっしゃらないと思うので、ミステリ好きの方にはぜひ手に取っていただきたいボルヘスですね。冒頭にも書きましたとおり、話し言葉でぐっと読みやすくなっていますので(純文学好きの方はわたくしが何もおすすめしなくてもボルヘスやミステリを読んでいらっしゃると思っています)。

語るボルヘス――書物・不死性・時間ほか (岩波文庫)


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エトガル・ケレット『あの素晴らしき七年』(新潮クレスト・ブックス) [随筆・日記]

息子が生まれた年から父が亡くなるまでの七年を、テルアビブに暮らす作家がつづったエッセイ集です。
エッセイ集ですからノンフィクションで、現在のテルアビブですからなかなか大変な時期です。ミサイルも飛んでくるし空襲警報も鳴るのですが、それはそれとして子育てはばたばたしますし、セールスの電話もかかってくる日常も存在します。著者は作家として世界各地のイベントに顔を出したりもしているので、つまりはじめての子育てに悪戦苦闘する作家のエッセイなんですよね。
妻と息子と過ごす日々、ホロコーストを経験した父の死や、それぞれ別の道を歩んだ兄と姉とのエピソードなど、家族についての物語も随所に顔を覗かせる、なんともにぎやかでおかしみにあふれるエッセイ集です。イスラエルの現実は確かに彼らの上に存在していて、それでもなおユーモアを忘れずにいる人たちがいるんですね。中でも一年目の「戦時下のぼくら」と七年目の「パストラミ」はどちらも現在のテルアビブでの出来事で、これらが最初と最後に入っているのが特に素敵だと思うところです。きっとパレスチナにも同じように思ってる人がいるんですよ。ね。

あの素晴らしき七年 (新潮クレスト・ブックス)


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石井好子『いつも異国の空の下』(河出文庫) [随筆・日記]

1950年8月、まだ粗末だった羽田空港からサンフランシスコ行きの飛行機に乗り込んだ日本人歌手が、二十世紀なかばのアメリカからパリ、ヨーロッパ各地やキューバまでを旅した八年間の回想です。
料理エッセイで有名な人とばかり思っていたのでぜんぜんオムレツのにおいがしないことに最初はびっくりしていました。ご飯の話よりショービジネス界の話、それと思いがけず20世紀の激動の歴史によりそう人々の話になっていますね。読書方面以外では料理じゃなくてシャンソン歌手として有名な人ですし。
戦後しばらくした日本を離れた女性が異国でシャンソンを学びながらどのように生きたか、当時出会った人々の息遣いに満ちた記録として読めるのはもちろん、ショーの世界の裏側を垣間見られる楽しみもあります。ほんの八年間で驚くほど様変わりするパリの芸人たちの世界、新鮮なブロードウェイのミュージカル、革命前夜のキューバまで、今となっては歴史の一ページじゃありませんか。歌手としての修業や同僚との友情みたいな個人的な思い出も、その陰に否応なしにくっついてくる世界情勢も、振り返れば一冊の本になってしまうんですよ。


いつも異国の空の下 (河出文庫)

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上田秋成/井上泰至訳注『春雨物語 現代語訳付き』(角川ソフィア文庫) [随筆・日記]

『雨月物語』でおなじみ上田秋成の晩年になってからの作品集です。以前石川淳の新釈バージョンを読んだことがあるですが、原文つきで全十篇収録というので再挑戦です。
いやはやこれは『雨月』にくらべてマイナーなのもうなずけます、歌論が三つも入ってるんですから。紀貫之が都への帰途で遭遇する伊予の海賊や、旅人が山の中で出会う神に託して自分の言いたいことを言ってるだけじゃないんですか。
この世ならぬものの出現は少なめですが「目ひとつの神」にわらわら出てくる異界のものどもは印象的ですし、そのぶん人間しか出て来ないお話が鬼気迫る雰囲気です。「死首の咲顔」とか「捨石丸」の理不尽さに呆然となりますし、即身仏がよみがえる「二世の縁」はコメントのしようがない毒気があります。
そして前回衝撃を受けた上下編からなる「樊噲」は、改めて原文で見直してもやはりとんでもなかったです。めまいをおぼえるような極悪人が徳の高い坊さんになって大往生しましたとさ、って作品が書かれたのが江戸時代、つい最近ですよ。先進性とはとても呼べないとんがったセンスじゃないですか。

春雨物語 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)


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巖谷國士『ヨーロッパの不思議な町』(ちくま文庫) [随筆・日記]

もともとが1990年刊行で文庫化が1996年、だいたい1970年代終わり頃~80年代後半までのヨーロッパを旅した著者の記憶です。ご存じの通りちょうどヨーロッパの激動期にあたっているので、今となってはもう通常のガイドブックとしての利用は難しくなった本です。そういうやむにやまれぬ事情も相まって、なおのこと本書を現実には存在しない国々のガイドブックたらしめています。
時代の動いたせいもありますし、何よりもこの本は著者がそのとき見た都市の景色や空気を書き残すことに全力を注がれているんですね。これは巖谷さんの過ごしたヨーロッパのとある町のことを書いていて、ここに行けば誰でも同じものを見たり感じたりできるわけではない。ですからどうしたってガイドブックには向きませんし、この本を手にして出かけてみても巖谷さんの見た風景と同じものはどこにも見当たらないでしょう。
しかしながら、本書の頃とは大きく変わっているであろうヨーロッパをこれから他の人たちが訪れるとすると、今度は巖谷さんの見られなかった人や風景が見えることも間違いないんですよね。そうするとやっぱり旅に出たくなるしそのときにはいっしょに連れて行きたくなる本であることに変わりはありません。

ヨーロッパの不思議な町 (ちくま文庫)


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万城目学・門井慶喜『ぼくらの近代建築デラックス!』(文春文庫) [随筆・日記]

男性小説家ふたりが大阪・京都・神戸・横浜・東京、そして台湾の近代建築をめぐる、ガイドブックのようでそうでもなさそうな案内本です。というのは万城目さんが近代建築ファン、門井さんが建築家や歴史にも造詣の深いファンという調子でつまり両方ともファンで、半分以上ファンがしゃべってるだけの本なんですよ。アクセスの詳細も周辺のおいしいお店情報もありませんし、編集方針として全体的に写真はひかえめになっています。ふつうに紹介するガイドブックとしては物足りないながらも、お二人があんまりにも楽しそうにしているものだからかえって行ってみたくなるんですね。
たまたま大阪のいくつかの建物についてはじっさいに目にしたこともあり、我が意を得たりの感がありました。さっぱり知らなかったので興味深く読んだのは、建築家についてのエピソードのいろいろですね。初めて訪れたエリアで、近代建築を楽しむときのポイントがひとつ増えました。

ぼくらの近代建築デラックス! (文春文庫)


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